映画を観るとき、あなたは字幕派ですか?それとも吹替派ですか?
画面の裏側では、翻訳家たちがセリフ一つひとつに命を吹き込み、物語を私たちに届けています。
本記事では、映画翻訳の世界を字幕翻訳と吹替翻訳の両面から解説。
制作の流れや制約、翻訳家が日々直面する工夫と苦労、そしてこの仕事に必要なスキルまで、舞台裏をのぞいてみましょう。
さらに、映画翻訳そのものを題材にした作品『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』もご紹介します。
映画を愛するすべての人に、字幕と吹替の奥深さ、そして翻訳家という仕事の魅力をお届けします。
映画翻訳とは?
映画翻訳とは、海外映画やドラマを日本の観客に届けるためにセリフやテキストを別の言語に置き換える作業です。
単に言葉を直訳するだけでなく、文化や習慣、ユーモアやニュアンスまで正確に伝えることが求められます。
映画の翻訳は、大きく分けて字幕翻訳と吹替翻訳の2種類があります。
どちらも同じ原語から翻訳しますが、完成までの工程や求められる技術は大きく異なります。
字幕と吹替の2つの形
- 字幕翻訳
画面下に表示される文章。文字数や表示時間に制限があるため、短く要点をまとめる力が必要です。 - 吹替翻訳
日本語音声として収録される翻訳。俳優の口の動き(リップシンク)に合わせながら、感情の流れも再現します。
映画翻訳が担う役割
映画翻訳は、物語の理解度や感動の深さを左右する重要な仕事です。
翻訳が自然であれば、観客は作品の世界観にスムーズに没入できます。
逆に、不自然な訳やニュアンスのズレがあると、感情移入の妨げになることもあります。
字幕翻訳の舞台裏
映画の字幕翻訳は、単にセリフを日本語に置き換える作業ではありません。
映像のタイミングや文字数、読みやすさをすべて考慮しながら、観客が瞬時に理解できる言葉へと磨き上げる作業です。
字幕翻訳の工程
映画会社や配給元から、原語の台本と映像を受け取ります。
原語のニュアンスを崩さず、文化的背景や人物の性格も反映させます。
セリフの表示開始・終了のタイミングを秒単位で設定。
実際に字幕を映像に重ねて確認し、不自然な点や読みづらい箇所を修正します。
文字数・秒数など独自の制約
字幕翻訳には厳しい制約があります。
- 1行あたり最大13〜15文字、2行で表示(合計26〜30文字程度)
- 表示時間は1〜6秒が目安(長すぎても短すぎてもNG)
- 読みやすさを優先し、難しい漢字はひらがなにすることも多い
この制約の中で意味を正確に伝えるため、大胆な省略や意訳が必要になることも珍しくありません。

2行30文字以内って…私のLINEより短いじゃない!



だからこそ、セリフの取捨選択が命なんだね。
ニュアンスを活かす翻訳の工夫
- 言葉の響きやテンポを保つため、直訳よりも意訳を選ぶ場合が多い
- 文化的なジョークやことわざは、日本人にも伝わる表現に置き換える
- キャラクターの性格や話し方(敬語・口調)を忠実に反映する
字幕翻訳はまさに「限られた枠の中で最大限の意味を伝えるアート」と言えるでしょう。
吹替翻訳の舞台裏
吹替翻訳は、映像に合わせて日本語音声を作るための翻訳作業です。
字幕翻訳と違い、視覚的な文字制限はありませんが、俳優の口の動き(リップシンク)や感情表現に合わせる必要があります。
吹替翻訳の工程
オリジナル台本と映像をチェックし、シーンの雰囲気やキャラクターの感情を把握します。
セリフの長さや発音リズムを意識しながら日本語化します。
口の動きに合うように語尾や単語を調整。
声優やディレクターと協力し、演技や口パクに合うよう細かな修正を加えます。
リップシンクと演技のタイミング
吹替翻訳の最大の特徴は、口パク(リップシンク)との一致です。
例えば「Thank you」を「ありがとうございます」と直訳すると口の動きが合いません。
そこで「どうも」や「感謝します」など、意味を保ちながら口の形と発音時間を合わせる工夫が必要になります。
吹替ならではの表現調整
- 字幕では削る細かい説明を、吹替ではセリフとして補足できる
- 子ども向け作品では、難しい単語をやさしい言葉に置き換える
- コメディやアクションでは、声優の演技に合わせてアドリブ的な表現を入れる場合も
吹替翻訳は、翻訳者と声優の共同作業であり、演技と翻訳が一体となって作品の魅力を引き出します。
字幕と吹替の違いと選び方
字幕翻訳と吹替翻訳は、同じ映画翻訳でも観客体験や表現の自由度が大きく異なります。
それぞれの特徴を知ることで、自分に合った楽しみ方が見えてきます。
表現の自由度の差
- 字幕翻訳
- 文字数・表示時間に制約があるため、情報を凝縮して伝える必要がある
- 簡潔でテンポの良い表現が求められる
- 吹替翻訳
- 映像の尺内であれば情報量を多く入れられる
- 口パクに合わせる制約はあるが、説明や補足がしやすい
観客体験の違い
- 字幕派の特徴
- 俳優の生の声や演技のニュアンスをそのまま感じられる
- 外国語の響きや文化をダイレクトに味わえる
- ただし、文字を読むため映像に集中しづらい場合もある



やっぱり本物の声が聞けるのが一番!臨場感が違うよ
- 吹替派の特徴
- 映像に集中できるため、アクションや細部を見逃しにくい
- 子どもや高齢者など、字幕が読みづらい人にも適している
- 声優の演技が作品の印象を左右することも多い



吹替だと映像に集中できるし、声優さんの演技に惚れちゃうこともあるのよね
映画翻訳家という仕事
映画翻訳家は、海外映画を日本の観客が自然に楽しめるように言葉と文化を橋渡しする職業です。
字幕翻訳や吹替翻訳を手掛けるほか、作品によっては歌詞やテロップ、看板の文字なども翻訳します。
求められるスキル
- 高い語学力:原語の意味やニュアンスを正確に理解できること
- 文章表現力:短い言葉で的確に感情や状況を伝える力
- 文化的知識:ジョークや慣用句、歴史的背景を理解し、日本語に置き換えられる知識
- 映像リズム感:台詞や映像のテンポを崩さない感覚
映画翻訳家になるには
英語や対象言語を基礎から学び、映画のセリフを聞き取れる力を養う。
映画字幕・吹替翻訳の講座やスクールで実務形式を学ぶ。
映像翻訳コンテストやトライアルに参加し、実績を作る。
翻訳会社や配給会社と関係を築き、継続的に仕事を受注できる状態にする。
有名映画翻訳家の例
- 戸田奈津子さん:数多くのハリウッド大作を手掛け、日本映画翻訳界の第一人者
- 松浦美奈さん:ドラマ『24』や映画『ボヘミアン・ラプソディ』などを担当
- 伊藤美紀さん:ディズニー作品やアニメ映画で幅広く活躍
映画翻訳をテーマにした作品
映画翻訳が物語の中心になる作品は珍しいですが、その中でも特に注目の一本があります。
『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』
原題は Les Traducteurs(2019年、フランス)。
世界的ベストセラー小説の極秘翻訳プロジェクトに集められた9人の翻訳家たちが、外部との接触を完全に断たれた密室で作業を始めます。
しかし、物語の一部がネット上に流出したことで、状況は一変。
「犯人はこの中にいる」──翻訳家たちを巡る知的なサスペンスが展開します。
本記事では概要のみご紹介しましたが、詳しい感想や見どころは別記事をご覧ください。





これ、絶対観たい!密室ミステリー好きにはたまらない



しかも主人公が翻訳家って珍しいよね
その他の映画翻訳関連作品
- The Interpreter(ザ・インタープリター/2005)
国連の通訳が陰謀を耳にしてしまう政治スリラー。同時通訳という職能をドラマの中心に置いた代表作。 - Arrival(メッセージ/2016)
言語学者が“未知の言語”を解析するSF。言語理解=世界の見え方が変わるというテーマが映画翻訳の本質と響き合う。 - Being George Clooney(2016/ドキュメンタリー)
世界各国でジョージ・クルーニーを吹替える声優たちに密着。吹替とローカライズの現場をリアルに描く。 - The Whistlers(2019)
カナリア諸島の“口笛言語(El Silbo)”を鍵にした犯罪劇。言語×サスペンスの好例。 - The Interpreters(2018–2019/ドキュメンタリー)
戦地で米軍を支えたアフガン・イラクの通訳たちを追う。言語の橋渡しが持つ命綱としての重みを描く。
まとめ
映画翻訳は、ただ言葉を置き換える作業ではなく、文化や感情を橋渡しするクリエイティブな仕事です。
字幕翻訳は限られた文字数と時間の中で、吹替翻訳は口パクや演技との一致を意識しながら、作品の魅力を最大限に引き出しています。
本記事では、
- 字幕翻訳と吹替翻訳の工程と違い
- 映画翻訳家に求められるスキルとキャリア
- 翻訳をテーマにした映画作品
をご紹介しました。
映画を観るときに「字幕か吹替か」を選ぶ際、翻訳の舞台裏を知っていると、より深く作品を味わえます。
ぜひ、これまでとは違う視点で映画を楽しんでみてください。
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