涙レベル ★★★★☆(4/5)
観終わったあと、ふとした瞬間にこみ上げてくる“遅れてくる涙”があります。
誰にも届かないと信じていた声が、ほんの一瞬、確かに誰かに触れたとき——
その余韻が、そっと涙を連れてくる作品です。
本作品は、ほかのクジラには届かない周波数で鳴く「52ヘルツのクジラ」をモチーフにした物語。
言葉にできない痛み。
誰にも気づかれない孤独。
それでも、声を出すことをやめなかった人たちの姿が、静かなトーンで描かれていきます。
この映画は、「泣く」というよりも、自分の中にしまい込んできた気持ちを、そっと見つめ直してしまう映画です。
作品情報
- 公開年:2024年
- 監督:成島出
- 脚本:吉田恵里香
- 主演:杉咲花、志尊淳
- 上映時間:131分
- 制作国:日本
- 原作:町田そのこ(小説『52ヘルツのクジラたち』)
あらすじ(ネタバレなし)
52ヘルツのクジラたちは、過去に深い傷を抱えながら、静かな町でひとり暮らす女性・貴瑚(きこ)を主人公にした物語です。
他人との関わりを避けるように生きてきた彼女は、ある出来事をきっかけに、声を上げることができず、誰にも助けを求められない少年と出会います。
家庭の中で、社会の中で、「聞いてもらえない声」を抱えてきたふたり。
互いの存在に戸惑いながらも、少しずつ心の距離を縮めていく中で、それぞれが背負ってきた過去が静かに浮かび上がっていきます。
この物語が描くのは、大きな奇跡や劇的な救いではありません。
それでも、誰かの声に耳を澄ませること。
そして、自分自身の声を否定しないこと。
その小さな一歩が、確かに人の人生を変えていく。
そんな希望を、そっと手渡してくれる作品です。
登場人物・キャスト
- 三島貴瑚(みしま きこ)
演:杉咲花
過去に深い傷を抱え、静かな町で暮らす主人公。 - 岡田安吾(おかだ あんご)
演:志尊淳
貴瑚の前に現れる青年。
作中では親しみを込めて「アンさん」と呼ばれます。 - 新名主税(にいな ちから)
演:宮沢氷魚
貴瑚の職場の上司。
理性的で穏やかな佇まいの奥に、複雑な感情を抱えています。 - 少年
演:桑名桃李
声を発することができず、孤独の中で生きてきた少年。
作中では「52(ごじゅうに)」と呼ばれ、“届かない声”の象徴として描かれます。
感情スコア(当サイトオリジナル)
★=弱め / ★★★=ちょうど良い / ★★★★★=強め(当サイト基準)
| 感情 | スコア |
|---|---|
| 涙レベル | ★★★★☆(4/5) 胸の奥に溜まっていた感情が、静かにあふれ出す涙。観終わったあとに訪れる“遅れてくる涙”が印象に残ります。 |
| じわじわレベル | ★★★★★(5/5) 物語が進むにつれて、少しずつ心に重みが積もっていくタイプ。気づけば深いところまで感情が染み込んでいます。 |
| 重さレベル | ★★★★☆(4/5) 扱うテーマは決して軽くありませんが、必要以上に突き放す描き方ではなく、観る側の心の準備を待ってくれるような静かな重さです。 |
| 余韻レベル | ★★★★★(5/5) エンドロール後も、登場人物たちの声や沈黙が頭から離れません。すぐに感想を言葉にできないほど、長く心に残る余韻があります。 |
全体を通して、静かな痛みと、消えそうな声にそっと寄り添う一作です。
こんな人におすすめ
静かに心に残る映画が好きな人
大きな展開や派手な演出よりも、登場人物の表情や沈黙に感情を重ねていくタイプの作品です。
言葉にできなかった気持ちを抱えた経験がある人
誰にも伝えられなかった想い、気づいてもらえなかった声に、そっと寄り添ってくれます。
観終わったあと、余韻に浸る時間を大切にしたい人
すぐに答えが出る映画ではありません。
あとから何度も思い返してしまう感情が、静かに残ります。
「泣ける」の形は人それぞれだと感じている人
涙が流れる瞬間よりも、心の奥が動いたことに、あとで気づくような作品です。
泣けるポイント
言葉にならなかった声が、確かに存在していたこと
この物語で描かれる「52ヘルツの声」は、誰かに届くためのものではなく、それでも声を出してしまった気持ちの象徴のように感じられます。
伝わらなかったことよりも、「声を出そうとしたこと」そのものが、静かに、でも確かに胸を打ちます。
誰にも聞かれなかったかもしれない。
それでも、その声は確かにここにあった——
そう思えた瞬間、胸の奥がじんわり熱くなっていきます。
救う側と救われる側、その境界が揺らぐ瞬間
この映画は、誰かが誰かを一方的に救う物語ではありません。
寄り添うつもりが、支えられていたことに気づく。
守っていると思っていた手が、実は自分自身をつなぎとめていた。
そんな関係性の揺らぎが、はっきりとした言葉ではなく、視線や間(ま)として描かれていきます。
その曖昧さこそが、人と人との関係のリアルさであり、静かな涙につながっていくポイントです。
「わかってもらえなかった過去」を否定しない優しさ
この物語は、過去の痛みがすべて癒やされることも、完全に解決されることも描きません。
それでも、「つらかったと感じた気持ち」をなかったことにしない視線があります。
救われなかった時間も、
声を上げられなかった自分も、
そのまま肯定してくれるような静かな優しさ。
その姿勢に触れたとき、自分自身の記憶まで、そっと抱きしめられたような感覚が残ります。
感想・レビュー
原作小説を読んでから映画を観ました。
細かな描写が省かれている部分はありましたが、物語の軸や感情の流れは、原作にとても忠実に映像化されていたように感じます。
特に印象に残ったのは、「52ヘルツのクジラの声」を実際に“音”として聴けたことでした。
本を読んでいるときには想像しきれなかったその声が、映画の中では確かに存在していて、物語の象徴がぐっと現実に引き寄せられた感覚があります。
また、原作では描かれていた「少年のこれから」については、映画ではあえて踏み込まず、少し余白を残したまま物語が閉じられていました。
その結末は、すべてを説明してくれるわけではありません。
けれど、だからこそ
観る側がそれぞれの想いを重ねられる終わり方だったようにも思います。
原作を知っているからこそ感じる物足りなさも、映画だからこそ生まれた静かな余韻も、どちらもこの作品の一部。
声にならなかった感情を、映像と音でそっとすくい上げてくれた——
そんな印象が、観終わったあとも心に残る映画でした。
静かな余韻が残る作品をもう一本探している方には、
南フランスの光の中で“家族の距離”を描いた『プロヴァンスの休日』 や、
夫婦のすれ違いを丁寧に描いた『今度は愛妻家』 もおすすめです。
どちらも、観終わったあとに心がゆっくり動くタイプの映画です。
『52ヘルツのクジラたち』はどこで見られる?【配信・DVD情報】
| 視聴手段 | 配信・販売状況 |
|---|---|
| Prime Video(Amazon) | 〇 見放題配信中 |
| Netflix | × 未配信 |
| U-NEXT | 〇 見放題配信中 |
| Hulu | 〇 見放題配信中 |
| TSUTAYA DISCAS | 〇 DVDレンタル対応 |
| DVD(販売) | 〇 新品・中古ともに取り扱いあり |
| Blu-ray(販売) | 〇 新品・中古ともに取り扱いあり |
※ Prime Video は Amazon の動画配信サービスです(旧称:Amazonプライム・ビデオ/通称:アマプラ)
まとめ
映画『52ヘルツのクジラたち』は、誰にも届かなかったかもしれない声、言葉にできなかった感情に、静かに光を当ててくれる映画です。
観ている最中よりも、観終わったあと。
ふとした瞬間に思い出してしまう場面や言葉があり、そのたびに胸の奥が少しだけ締めつけられる——
そんな余韻が、長く残ります。
原作を知っている人には、映像と音によって立ち上がった「52ヘルツの声」が、物語の象徴をよりはっきりと感じさせてくれるはずです。
そして、この映画にすぐ答えを求めなくてもいい。
わからないまま、整理できないままでもいい。
誰かの声に耳を澄ませたこと。
そして、自分自身の声を、ほんの少し大切にしようと思えたこと。
その感覚こそが、この映画がそっと手渡してくれるものなのかもしれません。
静かに心に沁みる邦画を探している方は、
Amazonプライムで観られる“泣ける邦画”をまとめた記事も参考にしてみてください。


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